「痛い痛い痛いっ!」 「うるさい!じっとしてろ!」 部屋中に響く声で暴れるキラを一喝すると、アスランは手にした包帯を ぐるぐると血まみれの手に巻き付けていく。 その動きはお世辞にも丁寧とは言えず、 「痛っ!ちょっアスラン!もうちょっと優しくっ・・・」 目に涙を浮かべて懇願するキラをちらりと見、 「知るか、自業自得だ」 「あっ痛!ちょっちょっ、いっ!!」 一巻きする度に身体を震わせるキラを半眼で眺めると、 アスランは深く深く溜息を吐いて手を緩めた。 「・・・解くの?」 「消毒してないだろ」 「あ、ほんとだ」 「・・・・・・」 気付けよ、と心の中でツッコミを入れながら、 アスランは手早く包帯を巻き取ると、それをごみ箱へ放り捨て、 後ろに置いておいた薬箱へ手を伸ばした。 そして消毒液の瓶の蓋を開けて振り返ると、 「・・・何してる」 「染みない?」 「染みるに決まってるだろ。っていうかそこからどけ!」 アスランのベッドにちょこんと正座したキラが 怪我をした方の手を庇うようにしてアスランを見ていた。 「じゃあ消毒いいっ。いらないっ!」 キラはぷるぷると頭を振って必死に消毒を拒む。 そう言っている間にも左手の指の隙間を縫って赤い糸が滴り落ち、白いシーツに染みをつくっていた。 「ああっ!何やってるんだよお前は!」 「えっ、わっ、ごめん!」 自分のつくったいつくもの赤いしみに気付いたキラは慌てて立ち上がる。 しかし、一歩も動けないまま、すぐにまた同じ場所へ座り込んでしまう。 「・・・あれ?」 きょとん、とした様子で空を見つめるキラの隣に座ると、 アスランは手早く消毒液の蓋を開けた。 辺りに鼻をつく独特の臭いが広がる。 「血を流し過ぎだ。ほら、手出して」 「・・・・・・」 「・・・キラ」 睨むと、キラはおずおずと血まみれの右手を差し出してきた。 (・・・・・・) 差し出された手を取り、改めて傷口を目の当たりにしたアスランは眉を顰めた。 未だ止まる様子のない血はすぐにアスランの手も赤く染め、シーツのしみを増やす。 「アスランっ、シーツが・・・っ」 「いいから」 動脈を傷付けられたわけでもなければ神経をやられたわけでもない。 だが貫通だ。 完全に穴が開いている。 コーディネイターならばそのうち元通りに戻るであろうが、 それにしたって痛いものは痛い。 痛みにコーディネイターもナチュラルもない。 恐らくはこれから傷が熱を持って眠れない夜が続くだろう。 「いっーーーー!!」 キラの身体が大きく震えた。 思わず引きかける手をしっかりと掴むと、 アスランは惜しげもなく尚透明な液体で赤い血を洗い流す。 「・・・・・・っ」 痛みに耐えるキラを見つめ、アスランは小さく呟いた。 「・・・もう絶対こんなことするなよ」 キラは上目遣いにアスランの表情を伺った後、神妙な顔で頷いた。 「・・・うん」 そして部屋に沈黙が訪れる。 包帯の布擦れの音だけが響く中、アスランは心の中で大きく息をついた。 (・・・本当に、心臓が止まるかと思った) next.